マトゥラー(Mathura)美術(4)

 マトゥラーは、クシャーン時代に引続きグプタ彫刻の一大中心地で、絶えずインド彫刻のリーダーシップをとってきた。

 ガンダーラの影響を受けた通肩の作品に、ポスト・クシャーン時代(3世紀後半-4世紀前半頃)に位置付けられる一群の彫刻がある。

 グプタ時代に入ると、マトゥラー、サールナート、マールワール地区といった中心地ををもち、北インド全域に彫像美術が開花する。

 マトゥラー美術(4) ポスト・クシャーンからグプタ朝へ

仏坐像 (ポスト・クシャーン時代、3世紀後半-4世紀前半、ゴーヴィンドナガル出土、砂岩、マトゥラー博物館)

頭に渦巻形の螺髪(らほつ)が刻まれ、通肩に纏った衣文は厚く肉体を包む。右手は施無畏印、指の間には縵網相(まんもうそう)が付与されている

仏立像(ポスト・クシャーン時代、砂岩、ニューデリー国立博物館) 仏立像(5世紀中期、砂岩、高さ 145Cm、カルカッタ・インド博物館)

右上は、マトゥラー出土で衣文は左右対称に整えられ、肉体の生気が失われつつある。

仏立像(部分)(砂岩、マドラス州立博物館)

仏 立像(5世紀、砂岩、高さ 112Cm、マトゥラー博物館) 仏 立像(5世紀、砂岩、高さ 69Cm、ニューデリー国立博物館)

左上は、マトゥラーのジャマールプル出土。二体ともグプタ朝の5世紀造立。薄手の大衣を通肩にまとい、身体をひねる。衣文線が美しい。

グプタ期のマトゥラー仏の特徴は、通肩にまとった衣が身体に密着し、細い陽刻線によって身体全体を、流麗な衣文が覆っている。

  

仏頭部(5世紀、サールナート出土、ニュ-デリー国立博物館) チュンダー(准胝観音)(ニューデリー国立博物館)

 仏頭部は、グプタ美術の最も優れた作品の一つである。インドの如来像頭部で精神的表現と優美さを備えた作品は少ないといわれている

仏三尊像(グプタ期 5世紀、砂岩製、高さ 約160Cm 中尊の像高 100Cm、サーンチー第一仏塔)

サーンチー東トラナ(塔門)奥の繞道(にょうどう)に安置されている仏三尊像で、5世紀のグプタ紀にマールワール地区で造られた。中尊は結跏趺坐し禅定印を結ぶ。

中尊の肉髻が低く、螺髪は小粒で頭光の外縁に鋸歯(きょし)文をつけているのが特徴的。グプタ期には、中部インドのマールワール地区でも造像活動が活発に行われた。

  サールナート様式の仏像

   サールナート様式は、インド仏像の最盛期グプタ時代(320-647年頃)に、サールナートで造られた仏像の様式で、薄物の着衣には襞がなく肉体が透けて見える

初転法輪 (6世紀、サールナート出土、砂岩、カルカッタ・インド博物館)

転法輪印を結ぶ仏坐像で、台座中央に法輪、左右に鹿二頭と比丘尼五人を表し、サールナートにおける仏陀の最初の説法(初転法輪)を示す

仏立像(5世紀頃、サールナート出土、砂岩、ニューデリー国立博物館) 仏立像(5世紀頃、砂岩、カルカッタ・インド博物館)

通肩(つうけん)にまとった大衣は体躯に密着し、その表面に衣文をまったく表さない。両手には、衆生をすくい取る為の縵網相(まんもうそう)が見られる

仏立像(砂岩、カルカッタ・インド博物館)

サールナート ダーメク・ストゥーパ(6世紀頃)

 南インドの仏教美術                         アジアの宗教美術と博物館!

婦人像(6世紀頃、砂岩、高さ 76Cm,、カルカッタ・インド博物館) 仏立像(砂岩、マドラス州立博物館)

左上の婦人像は、マトゥラーの石ではなく、赤く塗られている。グプタ様式の最後期で、中世を志向する作品

(撮影、マトゥーラー博物館:2000年5月7日)